五つの役割を行き来しながら、これからの10年を考える
最近、経営者の成長について、「五つの転換」という話に触れました。自分で仕事を進める段階から事業全体を構想する段階へ。仕事の管理から人の育成へ。日々の経営から組織のガバナンスへ。そして、商いを広げる視点から社会に価値を生む視点へ、さらに事業家から投資家の視点へと、役割が変わっていくという考え方です。
この話を聞いて、自分が毎日何に時間を使い、その時間が会社のどのような力につながっているのかを、改めて考えました。
ただ、「いま自分はどの段階にいるのか」と聞かれても、一つには決められません。実際には、私はいま、この五つの段階に関わる仕事を同時に進めています。順番に一段ずつ上がるというより、必要に応じて行き来し、ときには先の課題にも取り組んでいる状態です。
目の前の問題に対応する日もあれば、事業の方向や人材育成を考える日もあります。組織の仕組みを整える一方で、会社が長く生み出す価値や、新しい機会への資源の配分も考えています。もっとも、取り組んでいることと、十分な力が身についていることは別です。複数の役割を担うからこそ、学び直すべき課題も見えてきます。
今回は社内の皆さんに、その先にある私自身の目標を共有したいと思います。いまから10年以内、2036年9月までに、第五段階を主な役割として担える経営者になりたい。経営を任せられる人を育て、機会を見極め、資源を配分し、価値のある事業が育つことを支えられるようになりたいと考えています。
これは私の経営者としての願いです。以下の時期や進め方は、この方向を具体的に考えるための案であり、会社の状況に合わせて議論し、確かめながら調整していくものです。
五つの段階を、重なり合う能力として捉える
五つの段階を一直線に並べると、一つを卒業したら次へ進み、以前の仕事には戻らないようにも見えます。しかし、現実の経営では、新しい事業を始めるたびに現場で学ぶ必要があります。組織が育った後も、経営者自身が判断し、責任を持つべき問題は起こります。
私はこの枠組みを、実行する力、方向を選び資源を組み合わせる力、人を育てる力、組織を安定して動かす力、そして長期の価値を見ながら資源を配分する力として受け止めています。それぞれを並行して鍛え、会社の成長に合わせて使う時間と責任の持ち方を変えていく。そのような成長を目指したいと思います。
また、段階の違いが人としての優劣を表すわけでもありません。一つの専門事業を何十年も丁寧に経営し、お客様や社員を大切にしている経営者にも、大きな価値があります。投資家になることは私が選びたい方向であって、誰もが目指すべき成功の形ではありません。
私に必要なのは、役割の名称を変えること以上に、日々の行動を変えることです。同じ問題を繰り返し自分で処理する時間を少しずつ減らし、判断できる人と仕事を受け止められる仕組みを育て、会社の将来に関わる選択に責任を持つ。その積み重ねが、次の役割につながると考えています。
自分で仕事を進めるところから、事業全体を組み立てるところへ
事業の初期には、自分で動くことが欠かせません。お客様と向き合い、納品に関わり、原価を理解するからこそ、現場で何が起きているのかが分かります。その経験は、後の判断を支える土台になります。
一方、同じ問題が起きるたびに、また自分が最初から解決しているようでは、会社としての蓄積が十分とはいえません。目の前の仕事は終わっていても、次の仕事をより良く進める力が残っているかどうかは、別に確かめる必要があります。
北海道開発グループ(HDG)の事業に置き換えると、商品が売れた後にも考えることがあります。なぜ選ばれたのか。その販路は継続できるのか。供給や納品の体制は対応できるのか。必要な費用を把握できているのか。そして、今回の経験を次の取引にどう生かせるのか。こうした問いを、一つのつながりとして見ていきたいと思っています。
中国語の「做局」を、私は、お客様、商品、パートナー、人材、情報、資金がかみ合うように事業全体を組み立てることと理解しています。そのためには、魅力的に見える機会の中から、いま取り組むものと、準備が整うまで待つものを選ぶことも必要です。
大切な仕事を終えたときには、会社に何が残ったのかを振り返りたい。業務を理解した人、使える判断基準、引き継げる記録、より確かな協力関係。そのいずれかが残れば、次の仕事を始める位置は少し変わります。
仕事を管理するところから、判断できる人を育てるところへ
組織が大きくなると、経営者のもとにあらゆる相談が集まることがあります。皆が責任を持って確認しているつもりでも、判断が一か所に集中すると待ち時間が増え、担当者が一連の仕事を通じて成長する機会も限られてしまいます。
私がもっと身につけるべきなのは、仕事の目的、判断の根拠、責任の範囲を一緒に伝えることです。「この仕事を任せる」と言うだけでは、相手はどこまで決めてよいか分かりません。使える資源、相談すべき条件、困ったときの支援まで明らかにして、初めて動きやすくなります。
例えば、新しい販売企画を同僚に任せる場面を考えます。お客様に届ける価値、納品上の条件、使える資源、共同で判断する事項を、始める前に確認する。そのうえで問題が生じたときには、事実と選択肢、本人の考えを持ち寄って話し合う。こうした経験を通じて、自分で判断できる範囲が広がっていくのだと思います。
そのためには、私自身の習慣も変える必要があります。自分と違う進め方を見るたびに仕事を引き取ってしまうと、相手が経験を積めません。目的と守るべき条件を共有したら、実践する余地を持ってもらう。必要な助言や支援を行い、学ぶ時間も確保する。その責任を私が担わなければなりません。
将来は、事業を独立して担える人を増やしたいと思っています。同時に、専門性を深めたい人の成長も大切にしたい。商品、品質、財務、お客様への対応など、それぞれの専門性があるから組織は強くなります。全員に経営者と同じ道を求めるつもりはありません。
日々の経営から、組織が安定して動く仕組みへ
日々の経営では、さまざまな選択を行います。ガバナンスを考えるときには、そこから一歩進んで、誰がその選択を行い、何を根拠とし、結果をどう確認し、問題が起きたときに誰が対応するのかを明確にする必要があります。
私にとっては、まず日常の仕事の中で、この仕組みが機能することが大切です。共同で判断する事項には、相談の仕方がある。実行する人には、必要な情報と権限がある。重要な決定には根拠が残り、異常が生じたときには報告と対応の道筋が分かる。こうした状態を少しずつ整えたいと思います。
具体的な組織の形は、会社の規模、株主構成、事業の状況に合わせて考えるものです。五段階という枠組みだけで制度を決めることはできません。必要な意思決定、監督、情報共有、責任の仕組みが実際に働いているかを見ていきたいと考えています。
ルールには、社員が迷う時間を減らす役割もあります。自主的に進めてよい範囲、承認を受ける条件、振り返りが必要な場面が分かれば、仕事は進めやすくなります。すべての事項に承認を増やすだけでは、担当者も責任者も忙しくなる可能性があります。
デジタル化やAIは、記録を整理し、異常を見つけ、繰り返しの作業を減らす助けになります。その先では、人が事実を確かめ、判断し、責任を持つことが必要です。便利な道具を使うほど、情報の出所や権限、担当を明らかにしておきたいと思います。
仕組みが育っているかは、身近な問いで確かめられます。重要な担当者が一時的に不在でも、お客様への対応は続くか。必要な資料は見つかるか。判断を止めずに仕事を進められるか。その変化を受け止められてこそ、会社に力が蓄積したといえるのだと思います。
商いを広げる視点から、長く価値を生む視点へ
元の話では、この転換を、利益の追求から社会的な価値の創造へと表現していました。私はその責任への意識に共感します。そして利益と価値を、つながったものとして考えています。健全な経営があるから、給与を払い、約束を守り、商品を改善し、パートナーとの関係を育て続けることができます。
そのうえで、一つひとつの判断を、もう少し長い時間で見たいと思います。売上につながった仕事は、お客様からの信頼も深めただろうか。取引先との関係は、双方が長く力を注ぎたいと思えるものだろうか。社員は経験を積み、成長し、将来の生活に見通しを持てているだろうか。私たちの仕事は、北海道の生産者や地域に、継続する機会をつくれているだろうか。
こうした問いは、毎日の具体的な行動に表れます。商品の品質を守ること。正確な情報を伝えること。納品の約束を果たすこと。公正に協力すること。チームの負担を見過ごさないこと。長期の価値は、その積み重ねによって形になると思います。
会社が十分に大きくなってから責任を考えるのではなく、いまの選択が将来の会社を形づくっている。その意識を持ち続けたいと考えています。
事業を経営するところから、事業と経営者の成長を支えるところへ
これが、今後10年をかけて主な役割にしていきたい第五段階です。そのためには、新しい肩書き以上に、機会を見極め、相手の成長を支える能力が必要になります。
新しい事業の可能性に触れたときには、お客様の需要は確かか、誰が経営を担うのか、そのチームに足りないものは何か、自分たちが提供できる支援は何かを考える必要があります。さらに、どのような条件なら続け、見直し、あるいは終了するのかも、考えておかなければなりません。
関わり始めた後には、進捗を把握し、経営を担う人を尊重しながら、課題を見つけ、必要な意思決定や監督に参加する力が求められます。任せる範囲と、継続して責任を持つ範囲を、明確にすることが大切だと思います。
私が提供できるようになりたい資源には、資金に加えて、お客様や販路への理解、商品の経験、パートナーとの関係、組織をつくる方法、経営を着実に進めるための知見があります。そうした蓄積が、別のチームの成長に役立つ状態をつくりたいと考えています。
もちろん、事業を増やせば自然に相乗効果が生まれるわけではありません。投資に回れば、自分で経営するより高い収益が得られるとも限りません。異なる事業が同じ市場の影響を受けることも、資源の共有によって調整の負担が増えることもあります。新しい展開は、理解できる範囲、人材の力、負担を引き受けられる条件を確かめながら進める必要があります。
また、会社として事業に資源を配分することと、個人や家族の資産をどう管理するかは、それぞれ別の課題です。ここで共有したいのは、私が経営者として担いたい役割と、人や事業をどう育てていくかという方向です。
将来、より多くの仲間が、自分の事業に責任を持ち、それに見合う権限と支援を得て仕事を進めている。私は、その方向を共に考え、経営者を育て、必要な資源を整え、長期の運営を支えている。そのような状態を目指したいと思います。価値のある仕事を続けられる人を、どれだけ支えられるようになったか。それを、自分の成長を測る一つの基準にしたいと考えています。
2036年まで、能力に合わせて仕事の重心を変えていく
10年という目標は、日々の変化につながってこそ意味があります。ここからは、今後チームと話し合っていきたい進め方の案です。年は重心を考えるための目安であり、次へ進む判断は実際の能力と状況を見て行う必要があります。
2026年から2028年は、基礎を整えることを大切にしたいと思います。重要な仕事の責任、必要な情報、成果や納品の基準、判断できる範囲を明確にしていく。繰り返し起きる問題を、使える経験として残していく。日常の仕事をチームで進め、異常を早く共有できるようになっているかが、変化を見る手がかりになります。
2029年から2031年は、事業を担う人の育成に、さらに力を注ぎたいと考えています。お客様、チーム、成果、資源のつながりを理解し、一連の事業に責任を持つ経験を、適した人に少しずつ積んでもらう。本人が判断できるようになることに加え、次の仲間を育てられるようになることも、大切な進歩です。
2032年から2034年は、主要な事業とチームに受け止める力があることを前提に、資源の配分をより体系的に学び、実践したいと思います。新しい取り組みは、範囲を限って確かめるところから始める。投入する条件、途中の目標、確認の仕方、終了する条件を明らかにし、協業、事業の育成、投資などの形は、具体的な機会に合わせて選びます。
2035年から2036年9月までには、長く取り組む価値のある方向を選び、経営チームを支え、明確な仕組みのもとで事業の成長に関わることを、安定して主な仕事にできる状態を目指します。そのときも、現場に触れ、お客様を理解し、重大な責任を引き受ける姿勢は持ち続けたいと思います。
途中の基礎が十分でなければ、まずそこを整えることが必要です。日付に合わせるために無理に事業を広げたり、まだ支援が必要なチームから早く離れたりしては、この目標を掲げる意味が薄れてしまいます。
今日の仕事を、皆が成長できる機会につなげたい
この方向を進めることで社員の仕事だけが増え、権限も支援も成長の機会も変わらなければ、十分に形になったとはいえません。私の役割が変わる過程で、チームの力が育ち、一人ひとりが自分の進み方を考えやすくなることを大切にしたいと思います。
まずは、具体的な習慣から始めたい。重要な仕事に着手するときには、目的、担当、判断の範囲を共有する。案件が終わったら、次の人が使える経験を残す。困りごとは、事実、対応案、必要な支援を一緒に話し合う。そして、同僚を育てることや仕事の進め方を改善することにも、時間を確保する。その積み重ねを大切にしたいと考えています。
私自身も、定期的に予定や時間の使い方を振り返る必要があります。本当に自分が担うべき仕事は何か。同じ相談が続く背景に、権限委譲、人材育成、仕組みの不足はないか。自分の支援を通じて、以前より独立して責任を持てるようになった人がいるか。そうした問いを持ちたいと思います。
社内の皆さんにも、今後二、三年でどのような力を身につけたいか、どのような責任を担ってみたいか、会社にどのような支援を求めたいかを考えてもらえたらと思います。事業を担う道も、専門性を深める道も、それぞれの希望を聞きながら育てていきたいと考えています。
私はこれからも、五つの役割を行き来しながら学び続けます。今後10年、一つひとつの仕事を通じて、現場の経験をチームの力へ、その力を組織の土台へとつなぎ、さらに多くの人と価値ある事業を支えられるようになりたい。
それが、私が第五段階を目指す理由であり、皆さんと共に進めていきたい成長です。