世界のルールが変わるなかで、私たちは何を変えたか
― HDG、2026年前半の現在地 ―
2025年の年末、私は「2026年をHDGの変革の年にする」と書きました。
あれから半年余りが過ぎました。振り返ってみると、この半年は、単に売上や利益を確認する期間ではありませんでした。世界の変化が、私たちの事業、取引先、社員、そして経営の前提に、想像以上の速さで入り込んできた半年だったと思います。
世界経済の総量だけを見れば、すべてが悪いわけではありません。しかし、企業が利益を残すための条件は、明らかに厳しくなっています。米国経済には依然として強さがある一方、巨額の債務と金利負担が政策の余裕を狭めています。中国は製造業と輸出に競争力を持ちながら、国内の小売、住宅、雇用には弱さが残ります。日本も緩やかな回復を続けていますが、原材料、人件費、物流費、金利の負担が増え、家庭の消費は力強さを欠いています。AI投資は続いていますが、投資回収と雇用への影響が厳しく問われ始めています。
しかし、その一方で、普通の家庭や中小企業が感じている安心感は、総量の数字ほど強くありません。物価は高いままで、住宅や教育、老後への不安は消えていません。企業にとっても、売上が増えているからといって、利益やキャッシュが同じように増えるとは限らない時代になりました。
世界の現在地と、HDGの現在地には、どこか共通するものがあります。
米国は巨大な経済力と軍事力を持ちながら、その維持コストが上がっています。中国は輸出や製造業が伸びながら、国内消費には慎重さが残っています。日本はGDPや賃金が改善しながらも、家庭の生活実感はまだ強くありません。そしてHDGも、売上は伸びていますが、利益率は低下しています。
2026年前半に私が改めて感じたのは、「大きくなること」と「強くなること」は、同じではないということです。
今回のブログでは、2026年前半の世界、日本、中国、AIをめぐる変化を見た上で、HDGが今どこに立ち、何を変えようとしているのかを、できるだけ率直にお伝えしたいと思います。
先に、HDGについて結論をお伝えします
本稿でいう「2026年前半」は、世界経済については1月から6月、HDGについては当社の年度が始まる2月から7月までの上期を指します。7月については、7月20日時点の着地見込みを使用しています。
HDGの2月から6月までの累計売上は約16.3億円、7月は約3.5億円の着地を見込んでいます。2月から7月までの上期累計では、前年同期比約30%の増加となる見通しです。一方、売上高から売上原価を差し引いた粗利益の比率、すなわち粗利益率は、売上構成とコスト上昇の影響を受け、前年より低下する見込みです。
売上をつくる力は伸びました。しかし、売上を利益とキャッシュへ変える力は、まだ追いついていません。だからこそ、2026年下半期は、売上の大きさだけでなく、利益の質、データの正確さ、組織の再現性、そして社員の成長と還元まで含めて会社を強くする期間にします。
以下の世界経済、中国、AI、日本に関する考察は、政治的な立場を示すためのものではありません。HDGがなぜ利益、分散、人材、データを重視するのか、その経営判断の背景を説明するためのものです。
1.世界経済は成長している。しかし、安定しているわけではない
IMFは2026年7月時点で、2026年の世界経済成長率を3.0%と予測しています。世界経済は止まってはいませんが、国や地域によって回復にばらつきがあり、中東情勢、資源価格、金融環境、貿易摩擦、AI関連投資の調整などによって下振れしやすい状態にあります。
しかも、現在の厳しさは一つの不況要因から来ているのではありません。地政学的な対立が物流とエネルギー価格を揺らし、インフレが金利を高止まりさせ、金利が住宅・設備投資・企業金融を圧迫し、生活コストの上昇が消費を弱くする。その一方で、AIとデジタル化は競争速度を引き上げ、昨日まで成立していた仕事や利益構造を短期間で変えています。企業は「景気が戻るまで待つ」という選択が取りにくくなっています。
特に中小企業にとっては、売上価格をすぐに上げられない一方で、仕入、物流、人件費、システム、資金調達のコストが先に上がります。売上が維持されていても利益が削られ、利益を守ろうとすれば投資と賃上げが難しくなる。この挟み撃ちが、2026年の経営環境の厳しさです。
今の世界を一言で表すなら、「成長は続いているが、安定のコストが上がっている」ということだと思います。
その象徴の一つが米国です。
米国議会予算局によると、2026会計年度の財政赤字は1.9兆ドル、一般の投資家などが保有する連邦債務はGDP比101%に達する見通しです。利払い費も1兆ドルを超える水準に入り、財政の自由度を徐々に圧迫しています。
ただし、ここから「米国がすぐに崩壊する」と結論づけるのは正しくありません。米国には依然として、世界最大級の資本市場、基軸通貨としてのドル、大学・研究機関、技術企業、起業家を引きつける力、そして同盟国とのネットワークがあります。AI、半導体、宇宙、金融、バイオなどの分野でも、その革新力は非常に強いままです。
問題は、力がなくなったことではなく、その力を世界各地で維持し、使用するためのコストが高くなっていることです。
中東、欧州、アジアで同時に安全保障上の責任を抱えれば、財政負担だけでなく、装備、人材、補給、国内政治の負担も増えます。地政学的な緊張が高まれば、安全資産としてドルや米国債に資金が向かう場合もありますが、同時に原油価格や物価、金利を押し上げ、米国自身の負担を増やす可能性もあります。
したがって、未来は「米国一強がそのまま続く」か「米国が突然崩れる」かの二択ではありません。米国の力は残りながら、その影響力を維持するコストが上がり、他国が分野ごとに別の選択肢を持つようになる。その過程で、政策変更や市場変動が以前より頻繁に起きる。私はそのように見ています。
2.日本と中国が米国債を簡単に手放せない理由
米国の財政を考えるとき、日本と中国による米国債の保有がよく話題になります。
2026年5月時点で、日本は約1兆1,431億ドル、中国本土は約6,593億ドルの米国債を保有しています。日本は最大の海外保有国であり、中国も長期的には保有額を減らしてきたとはいえ、依然として大きな保有者です。
ここで重要なのは、米国債の保有を単純な「米国支持」と考えないことです。
外貨準備や金融機関の運用には、安全性、流動性、市場規模、換金のしやすさが必要です。現在の世界で、これらを同時に満たす市場は限られています。日本にとっては為替や金融機関の資産運用、中国にとっては外貨準備、輸出環境、人民元の安定など、国内事情とも深くつながっています。
保有し続ければ、金利上昇による評価損やドル依存のリスクを抱えます。しかし、短期間で大量に売却すれば、債券市場や為替市場を混乱させ、自国が持つ残りの資産価値や輸出環境にも悪影響が及ぶ可能性があります。
つまり、日本も中国も、完全に自由な立場ではありません。保有を続けることにもリスクがあり、急いで手放すことにもリスクがあります。
これは現在の国際経済をよく表しています。世界はつながり過ぎているため、明日から完全に分離することはできません。しかし、以前と同じように一つの国、一つの通貨、一つの市場だけに依存することにも不安がある。各国はその間で、時間をかけて依存度を調整しています。
企業経営にも同じことが言えます。取引先、仕入先、販売市場、物流、通貨、情報システムを一つに集中させれば、平常時には効率的です。しかし、環境が変わったときには、その効率性が一転して弱点になります。
これからの経営に必要なのは、すべてを切り離すことではなく、切り離せない関係を理解した上で、依存の集中を減らしていくことです。
3.中国経済――輸出の強さと、消費の慎重さが同居する
中国経済を見るときも、単純な「好調」か「不調」かでは実態を捉えられません。
中国国家統計局によると、2026年上半期の実質GDPは前年同期比4.7%成長しました。製造業、電子産業、輸出などには依然として強さがあります。一方で、社会消費品小売総額の伸びは1.3%にとどまり、住宅や地方財政、家計の将来不安も消えていません。
小売の内訳を見ると、厳しさはさらに明確です。中国国家統計局が公表した一定規模以上の小売事業者における名目小売額では、2026年上半期の自動車類は前年同期比12.6%減、家電・映像機器類は7.4%減、家具類は3.7%減でした。業態別でも、百貨店は2.1%減、ブランド専門店は8.7%減となっています。一方で、通信機器や食品など伸びている分野もあり、市場全体が一様に悪化しているというより、成長分野と縮小分野の差が急速に広がっています。
企業にとって厳しいのは、市場が縮小することだけではありません。売れる分野が短期間で変わり、値引きや販促の負担が増え、在庫を持つリスクが高くなることです。過去の販売実績だけで商品を仕入れ、前年と同じ方法で売ることが、以前より危険になっています。
中国の消費が慎重になっている理由を、単に「国民が節約するようになった」と説明することはできません。消費は原因ではなく、所得、資産、雇用、人口構成、社会保障、将来への期待が合成された結果だからです。
不動産価格が上がり続けていた時代には、住宅の値上がりが家計の安心感を支え、車、旅行、教育、家電などの支出を後押ししました。しかし、不動産市場が調整に入ると、この資産効果は反対方向に働きます。自宅を売る予定がなくても、自分の資産が減ったと感じれば、大きな支出には慎重になります。
雇用構造の変化も重要です。AI、半導体、高度製造業などの高付加価値分野では新しい仕事が生まれる一方、求められる能力は高く、すべての人が移れるわけではありません。反対に、配送、配車、短期契約などの柔軟な働き方は増えていますが、収入の変動が大きく、将来の予測が難しい面があります。
今月の収入が悪くなくても、半年後、二年後に同じ収入が続くか分からなければ、人は支出よりも貯蓄を選びます。それは文化の問題ではなく、不確実性に対する合理的な行動です。
人口構成も消費を変えます。高齢化、少子化、未婚人口の増加、世帯人数の減少によって、住宅、教育、乳幼児用品、外食、旅行、健康、介護などの需要構造は大きく変わります。これは単純な消費の「上昇」や「下降」ではなく、何に、誰が、どのような理由でお金を使うかが組み替わっているということです。
その結果、中国市場では中間的な商品が苦しくなりやすくなっています。価格を重視する層には、明確な安さと実用性が求められます。高価格帯では、ブランド、品質、体験、希少性など、価格を超える理由が必要です。そのどちらも不明確な商品は、選ばれにくくなります。
HDGにとって、この変化は重要です。
中国市場がなくなったわけではありません。消費者が以前より慎重に、比較し、選別するようになったのです。「日本製だから売れる」「北海道だから高くても売れる」という考え方だけでは通用しません。産地の物語、品質、容量、価格、利用場面、販売チャネルまで設計し、なぜその商品を買う価値があるのかを具体的に伝える必要があります。
北海道という名前は、入口にはなります。しかし、それだけで購入を決めてもらえる時代ではありません。北海道の価値を、相手の市場で伝わる形に編集する力が、これまで以上に必要になっています。
4.AI投資は終わったのではなく、「回収を問われる段階」に入った
2026年前半、AIをめぐる見方にも変化が生まれました。
これまでは、より多くのGPUを確保し、より大きなデータセンターを建設し、より大きなモデルを開発すること自体が評価される傾向がありました。しかし、投資規模が急速に拡大するにつれて、資本市場や企業経営者は「その投資が、いつ、どのような利益を生むのか」を以前より厳しく問い始めています。
中国の集積回路輸出でも、数量の伸びが鈍る一方、製品構成や半導体価格の影響によって輸出金額が大きく伸びる局面が見られました。ただし、集積回路全体の数字を、そのままAI半導体の数字と考えることはできません。メモリー、成熟製品、電源管理、パッケージングなど、さまざまな製品が含まれているからです。
AI関連株の価格調整が起きたからといって、AI投資が終わったわけでもありません。むしろ、誰にでも資金が集まる段階から、本当に技術を収益化できる企業、電力・データ・顧客を持つ企業、既存業務を変えられる企業が選別される段階に入ったと見るべきです。
AIが社会に与える影響も、単なる技術の問題ではありません。
AIは成長機会であると同時に、企業間格差を広げる圧力でもあります。導入できる企業とできない企業、正しいデータを持つ企業と持たない企業、業務を変えられる企業とツールを追加するだけの企業の差は、今後さらに大きくなります。導入費用、情報管理、人材の再教育が必要になる一方、成果が出なければ、その費用はそのまま利益率を押し下げます。
社員にとっても、従来の経験が無価値になるわけではありませんが、同じ仕事を同じやり方で続けることの安全性は低下します。定型業務が減るほど、顧客理解、交渉、判断、企画、責任を引き受ける力が重要になります。企業が再教育を行わず、個人だけに適応を求めれば、組織内の不安と格差は大きくなります。
企業収益が厳しく、競争が激しいとき、AIは最初に省力化やコスト削減へ使われやすくなります。定型的な資料作成、検索、翻訳、入力、問い合わせ対応、初期分析などは、急速に自動化されていくでしょう。その過程で、一部の仕事は減り、別の仕事では求められる能力が変わります。
だからこそ、経営者は「AIを導入した」という事実だけで満足してはいけません。AIによって何時間が削減されたのか、判断は速くなったのか、ミスは減ったのか、提案の質は上がったのか、利益につながったのかを検証する必要があります。
HDGでも、AIを積極的に活用しています。しかし、目的は人を単純に減らすことではありません。
商品情報の整理、議事録、翻訳、資料作成、顧客情報の検索、経営数値の確認など、繰り返し作業をAIに任せることで、人がより多くの時間を、お客様との対話、商品開発、交渉、判断、改善、そして人材育成に使える状態をつくることが本来の目的です。
AIを一部の詳しい人だけが使う道具にせず、会社の知識を蓄積し、社員全体の判断を支援する「第二の頭脳」にしていく。そのためには、AIの性能以上に、正しい原価、商品、在庫、顧客、案件データを整える必要があります。
同時に、顧客情報や取引情報を守るルール、利用権限、入力してよい情報の範囲、AIが作成した内容を人が確認する手順も整えます。AIが出した答えをそのまま正解とせず、最終判断と責任は人が持つことを原則にします。
AI時代に重要なのは、ツールを多く持つことではありません。正しいデータを持ち、現場で使い、結果を検証し、組織の知識として残すことです。
5.多極化とは、世界がきれいに分かれることではない
今後の国際秩序を考える上で、私はサウジアラビアやインドなどの動きに注目しています。
これらの国々は、安全保障、エネルギー、インフラ、技術、金融、貿易のすべてで、同じ国を選んでいるわけではありません。ある分野では米国と協力し、別の分野では中国と取引し、エネルギーではロシアや産油国との関係を維持する。案件ごとに、自国に最も有利な組み合わせを選んでいます。
これは、単なる日和見やどちらにもつかない態度ではありません。不確実な世界において、国家がリスクを分散するための現実的なポートフォリオ戦略です。
今後三年から五年で、世界がいくつかの固定した陣営に完全に分かれるとは限りません。むしろ、安全保障では協力していても貿易では競争し、技術では制限しながら資源では取引するという、複雑な関係が増える可能性があります。
ドルの準備通貨としての比率は長期的に緩やかに低下するかもしれませんが、明日突然、基軸通貨でなくなるとは考えにくいでしょう。人民元の国際利用は拡大しても、市場の流動性や資本移動の条件を考えると、短期間でドルに置き換わるわけではありません。ドル、ユーロ、人民元、円、金、デジタル通貨が、地域や用途に応じて併用される方向に進むと考えています。
企業にとっての教訓は明確です。
どこか一つの国の未来を当てることより、予測が外れても会社が生き残れる構造をつくることの方が重要です。販売市場、仕入先、通貨、物流、資金、情報を分散し、状況に応じて組み替えられる柔軟性が、これからの競争力になります。
6.日本経済――企業は持ち直し、家庭はまだ慎重である
日本経済も、見る立場によって景色が異なります。
2026年1―3月期の実質GDPは前期比0.5%増、年率換算で約1.8%増となり、個人消費も前期比0.3%増加しました。雇用も大きく崩れておらず、企業の設備投資や賃上げにも一定の改善があります。政府が「緩やかに回復している」と判断することには、数字上の根拠があります。
しかし、家庭が感じている生活は、それほど軽くなっていません。
2026年5月の全国消費者物価指数は前年同月比1.5%上昇しました。上昇率だけを見ると、物価は落ち着いたように見えます。しかし、2020年を100とした総合指数は113.5です。同じ生活をするために必要な金額は、2020年より平均で約13.5%高い水準にあります。
インフレ率が下がることは、値段が元に戻ることではありません。値上がりの速度が遅くなっただけです。さらに、家計が頻繁に購入する食品や外食などは、全体指数より高い上昇が続く品目もあります。エネルギー関連の補助政策によって全体の数字が抑えられていても、毎日の買い物では「まだ高い」という感覚が残ります。
賃金が上昇しても、消費がすぐに強くならない理由もここにあります。家計は、一度の賃上げだけでなく、それが来年も続くか、物価を長期的に上回るかを見ています。住宅ローン金利、教育費、老後、医療、介護への不安があれば、大きな買い物を延期し、手元資金を厚くするのは自然な行動です。
実際、2026年6月の消費者態度指数は33.8にとどまり、耐久消費財の買い時判断は24.6でした。さらに、93.3%の世帯が一年後の物価上昇を予想しています。2026年5月の二人以上世帯の実質消費支出も前年同月比0.4%減となり、6か月連続で前年を下回りました。月ごとの振れはありますが、家計が将来に十分な安心を持っていないことは明らかです。
雇用面でも、失業率が低いことが、そのまま企業にとって良い環境を意味するわけではありません。人手不足が高い水準にあるため、採用費と人件費が上がり、採用できないことで受注や新規事業を断念する企業も出てきます。売上機会があっても、それを実行する人がいないという供給制約が、日本企業の成長を抑えています。
現在の日本の消費者は、単に安い商品だけを求めているわけではありません。必要なものは買いますが、比較する時間が長くなり、買う理由が明確な商品を選びます。日常品では価格と実用性を重視し、高価格品では耐久性、品質、体験、物語など、支払う金額に納得できる理由を求めます。
最も苦しくなりやすいのは、価格も価値も中途半端な商品です。
これは、北海道の商品を扱う私たちにとって非常に重要な変化です。原材料が良い、北海道でつくられている、パッケージが美しい。それだけでは十分ではありません。誰に、どの場面で、なぜ選ばれるのか。価格に対してどの価値を約束するのか。売場で数秒見ただけでも伝わるのか。そこまで具体化する必要があります。
日本経済は「悪い」と言い切れる状態ではありません。しかし、「全面的に消費が回復した」と考えて経営計画をつくるのも危険です。低速の回復を基本に置きながら、物価、金利、為替、エネルギー価格の再上昇にも耐えられる計画が必要です。
現在の外部環境で最も危険なのは、売上が突然ゼロになることだけではありません。売上は残っているため危機に見えないまま、仕入価格、人件費、物流費、金利、販促費が少しずつ利益を削っていくことです。企業は忙しく、売上も増えている。それでも現金が残らない。この静かな収益悪化の方が、経営判断を遅らせるという意味では深刻です。
7.HDGの現在地――売上は伸びた。しかし、利益率は下がった
ここまで述べてきた外部環境を踏まえ、HDG自身の現在地をもう少し詳しく振り返ります。
当社の会計年度は2月から始まります。2026年2月から6月までの累計売上は約16.3億円となり、社内予算に対して約99%の水準まで進みました。4月までに生じていた遅れを、6月にかけてチーム全体で取り戻してきました。
7月の売上は、現時点で約3.5億円の着地を見込んでいます。これにより、2月から7月までの上期累計売上は、前年同期比でおよそ30%の増加となる見通しです。
これは決して小さな成果ではありません。既存のお客様との関係を守り、新しい商品を探し、価格や納期の調整を行い、担当変更や組織変更がある中でも業務を止めず、一つひとつの案件を積み上げてきた社員全員の努力によるものです。お取引先の皆様からいただいたご支援にも、改めて感謝申し上げます。
しかし、売上の増加だけを見て、「会社は順調に成長している」と言うことはできません。
ここでいう利益率は、売上高から売上原価を差し引いた粗利益の比率、すなわち粗利益率です。この粗利益率は、前年より低下する見込みです。
原材料、物流、人件費などの上昇に加え、売上構成の中で利益率の低い案件の比率が高まったこと、価格改定がコスト上昇に追いついていないこと、新規事業やブランドへの先行投資、業務の個別対応が多く標準化が十分でないことなど、複数の要因があります。
売上が30%伸びても、利益率が下がるのであれば、会社が30%強くなったとは言えません。
これは、現場の努力が足りなかったという意味ではありません。むしろ、現場の努力を適正な利益とキャッシュに変える仕組みを、経営として十分につくり切れていなかったということです。
売上をつくる力はあります。しかし、利益を残す力、正しい原価を把握する力、条件の悪い仕事を見直す力、経験を組織に残す力は、まだ成長の途中です。
2026年のHDGは、年間売上50億円という高い目標を掲げています。2月から6月までの実績と7月の見込みを合わせても、年間目標に対して約4割の水準です。食品流通には年末に向けて売上が大きくなる季節性がありますが、それを考慮しても決して余裕のある進捗ではなく、下半期には高い実行力が必要です。
ただし、この目標は、売上だけを追えばよいという意味ではありません。採算を無視して50億円へ到達しても、会社が強くなったことにはなりません。売上を利益に変え、利益をキャッシュとして残し、次の投資、人材、商品、信用につなげることができて初めて、目標を達成したと言えます。
今のHDGは、成長している会社ではあります。しかし、完成した会社ではありません。売上の拡大に、経営管理と組織の成長を追いつかせる。それが現在の最も重要な課題です。
8.2026年前半に、私たちがやめたこと、変えたこと
変革とは、新しいことを始めるだけではありません。続ける意味が薄くなったことをやめ、限られた人材と資金を、より重要な場所へ移すことも変革です。
2026年前半、私たちはCOCONO札幌での店舗運営を、7月末をもって終了する判断をしました。
店舗には、商品を直接お客様へ届け、反応を知り、ブランドを育てるという意義がありました。一方で、人件費、家賃、運営管理、在庫、経営者自身の時間など、想定以上に多くの資源が必要でした。店舗を続けること自体が目的になれば、会社全体の力を弱めてしまいます。
撤退は失敗を隠すことではありません。始めるときに立てた前提と現実を比較し、将来の可能性と必要な負担を見た上で、次の一手を選ぶ経営判断です。
この経験から学んだ最も大きなことは、事業を始める前に、任せられる人、数字を確認する仕組み、撤退を判断する基準を準備しなければならないということです。良いアイデアだけでは事業は続きません。人と仕組みがあって初めて、アイデアは事業になります。
一方で、すべてを縮小するわけではありません。
HOKKAIDOOR、MILKBATON、北森彩堂という自社ブランド・事業構想に経営資源を集中し、単なる商品の卸売から、売場、商品構成、ブランド、海外展開までを編集する会社へ進みます。海外についても、不特定多数への販売量だけを追うのではなく、信頼できる現地パートナーと継続的なB2B取引を構築する方向を重視します。
また、原価、在庫、案件、顧客情報の精度を高める作業にも着手しています。数字が正しくなければ、利益が出ている商品と出ていない商品を正しく判断できません。AIを導入しても、元のデータが間違っていれば、間違った判断を速くするだけです。
派手に見える改革ではありませんが、正しい数字を持つこと、業務を標準化すること、誰か一人の記憶に依存しないことは、会社を強くする土台です。
9.会社の成長と、人の成長を切り離さない
会社の成長は、売上や利益の数字だけで実現するものではありません。
一人ひとりの社員が、お客様の課題に向き合い、商品を探し、提案をつくり、納期を守り、問題が起きたときに最後まで対応する。その日々の積み重ねが、会社の信用となり、売上となり、次の仕事につながっています。
2026年前半の売上をつくったのは、経営計画書ではありません。実際にお客様と話し、仕入先と調整し、出荷を行い、請求と入金を確認し、問題を解決してきた社員です。
一方で、私は「会社が成長すれば、社員も自然に成長し、幸せになる」とは考えていません。
売上が増えても利益が残らなければ、給与や賞与、教育、採用、システムへの投資を継続することはできません。仕事量だけが増え、社員の負担が大きくなるような成長は、持続可能な成長とは言えません。
逆に、利益を守るという理由で、人材への投資を止め、挑戦の機会を減らし、目先の効率だけを求めれば、会社は数年後に成長する力を失います。
だからこそ、会社の成長と社員の成長を、循環として設計する必要があります。
社員の貢献は、売上をつくることだけではありません。
利益を残すこと、無駄やミスを減らすこと、正しいデータを蓄積すること、業務を標準化すること、後輩に教えること、部門を越えて協力すること、お客様や取引先からの信用を守ること。問題を早く報告することや、条件の悪い案件に対して「このままでは続けられない」と伝えることも、会社を守る大切な貢献です。
実際にこの半年、担当変更が生じた場面では、営業担当だけでなく、購買、物流、管理部門が協力して商品情報、取引条件、納期、請求の状況を整理し、お客様への影響を最小限に抑えました。これは新規売上としては表れにくい仕事ですが、既存のお客様との信用と将来の売上を守った、重要な貢献です。
売上は目に見えやすい数字ですが、会社の未来をつくる貢献のすべてが売上として表れるわけではありません。
これからのHDGは、こうした目に見えにくい貢献も、より正しく認識し、評価できる会社でなければなりません。評価制度を複雑にすることが目的ではありません。誰が、どの役割で、どのような価値を生み出したのかを分かりやすくし、結果と行動の両方を見られる仕組みにしていきます。
同時に、会社にも責任があります。
社員に成長を求めるだけではなく、学ぶ時間と機会をつくり、挑戦できる仕事を任せ、判断に必要な情報を共有し、貢献した人に次の機会と適切な評価を返す責任です。
今後、HDGが特に強化したい人材育成は、五つあります。
一つ目は、数字を理解する力です。売上だけでなく、原価、粗利益、在庫、回収、キャッシュまで考え、自分の仕事が会社の経営にどうつながっているかを理解する力です。
二つ目は、商品と市場を編集する力です。良い商品を見つけるだけではなく、誰に、どの価格で、どの売場で、どのように伝えるかを組み立てる力です。
三つ目は、交渉とコミュニケーションの力です。社内外で情報を正確に共有し、相手の事情を理解した上で、会社として守るべき条件を伝える力です。
四つ目は、AIとデータを使う力です。AIに答えを任せるのではなく、正しい情報を与え、結果を確認し、自分の判断をより良くするために使う力です。
五つ目は、人を育てる力です。自分だけが成果を出すのではなく、自分の経験を言語化し、次の人が再現できる形で残す力です。これが管理職や次世代リーダーに最も求められる能力だと考えています。
これを理念だけで終わらせないため、2026年下半期には三つの運用を始めます。第一に、半期ごとに評価と面談を行い、売上や粗利益などの成果に加え、業務改善、協力、人材育成への貢献も確認します。第二に、次世代リーダー候補を5名程度選び、数字、判断、部下育成を実際の仕事の中で学ぶプログラムを進めます。第三に、AI活用と業務改善の事例を毎月共有し、個人の工夫を手順書や共通知識として会社に残します。実施したかどうかではなく、現場の行動と結果が変わったかを確認します。
管理職の役割も変わらなければなりません。
進捗を聞き、報告を集めるだけでは不十分です。メンバーが判断できる情報を渡し、問題を早く発見し、必要な支援を行い、個人の経験を組織の標準へ変える。成果を出した人を正しく認める一方で、結果が出なかったときには、個人だけを責めるのではなく、目標、権限、情報、仕組みに問題がなかったかを確認する。これが管理職の仕事です。
AIについても、会社は社員に「自分で勉強してください」と言うだけではいけません。業務の中で使える環境を整え、事例を共有し、間違いやリスクを確認しながら、全員が少しずつ使える状態をつくる必要があります。
もちろん、社員にも主体性が必要です。会社が用意した研修を受けるだけでなく、自分の仕事をより良くする方法を考え、学び、試し、周囲と共有することが求められます。会社が機会をつくり、社員がその機会を使って成長する。どちらか一方だけでは循環は生まれません。
会社は、社員の貢献によって成長します。そして会社が成長して得た利益や信用を、給与、賞与、教育、働く環境、新しい役割、挑戦の機会として社員に還元する。その社員がさらに成長し、より大きな価値をお客様に提供する。
この循環をつくることが、これからのHDGの重要な経営課題です。
現在、売上が伸びる一方で利益率が下がっているという事実は、この循環がまだ完成していないことを示しています。社員が生み出した価値を、会社として十分な利益に変え、持続的に社員へ返していく構造をつくることは、経営の責任です。
私たちが目指すのは、会社だけが大きくなり、社員が疲弊する成長ではありません。社員が仕事を通じて能力を高め、その貢献が正しく評価され、会社の成長が再び社員の可能性へと還元される会社です。
10.2026年下半期、HDGが優先すること
世界の変動を私たちが止めることはできません。為替、金利、原油価格、国際関係、中国の消費、日本の物価を、HDGが直接変えることもできません。
しかし、外部環境に対してどのような会社をつくるかは、私たちが決められます。
2026年下半期は、次の五つを優先します。
第一に、売上から粗利益とキャッシュへ、経営の重点を移します
売上は重要です。売上がなければ利益も生まれません。しかし、条件の悪い売上を増やせば、業務量と資金負担だけが増えることがあります。
案件ごとの原価、物流費、手数料、在庫負担、回収条件を確認し、売上だけでなく、最終的に何が残るのかを判断します。価格改定、仕入条件、商品構成、物流方法を見直し、利益を生まない仕事については、条件変更、縮小、停止も含めて判断します。
第二に、やることを増やすのではなく、集中する対象を明確にします
限られた人員で、すべての市場、すべての商品、すべての販売方法を同時に伸ばすことはできません。
北海道商品の国内卸、付加価値のある海外B2B、自社ブランド、そしてこれらを支える商品・売場編集力に集中します。HOKKAIDOOR、MILKBATON、北森彩堂についても、商品数を増やすこと自体を目標にせず、誰にどの価値を届けるブランドなのかを明確にします。
第三に、社員と管理職の育成を、経営戦略として進めます
研修の回数ではなく、現場の判断が変わったか、数字を理解できるようになったか、後輩を育てられる人が増えたか、部門を越えて問題を解決できるようになったかを確認します。
役割、権限、期待する成果を分かりやすくし、貢献と評価、成長機会、処遇のつながりを強めます。特に、次世代リーダーを計画的に育成し、社長や一部の社員がすべてを判断しなければ進まない組織から脱却します。
第四に、AIとデータを個人の道具から、組織の能力へ変えます
商品、原価、在庫、顧客、案件、契約、議事録などの情報を整理し、必要な人が必要なときに確認できる状態をつくります。
AIで作業を速くするだけではなく、判断の質を上げ、ミスや差し戻しを減らし、お客様への回答を速くし、社員がより価値の高い仕事に時間を使えるようにします。導入数ではなく、時間、品質、利益への効果で評価します。
第五に、一つに依存し過ぎない事業構造をつくります
日本、中国、その他の海外市場を一つの見方で捉えず、それぞれの市場の役割を明確にします。取引先、仕入先、販売チャネル、通貨、物流についても、効率性と安全性のバランスを取ります。
分散は、すべてを少しずつ行うことではありません。中核となる強みを持った上で、環境が変わったときに別の選択肢へ動ける状態をつくることです。
おわりに――外部環境に安心を求めない
2026年前半、世界では、米国の財政負担、中東情勢、中国の内需、AI投資の選別、日本の物価と金利など、多くの変化が同時に進みました。
旧来の国際秩序は緩み始めていますが、新しい秩序が完成したわけではありません。これから数年間は、安定した一つの方向へ進むというより、局地的な衝突、政策変更、技術革新、市場調整が高い頻度で起きる可能性があります。
こうした時代に、経営者が外部環境の好転だけを待つことはできません。
景気が良くなれば利益が出る、中国の消費が戻れば売れる、円安が続けば輸出が伸びる、AIを入れれば生産性が上がる。そのような一つの前提に会社の未来を預けるのではなく、前提が外れても生き残れる会社をつくらなければなりません。
HDGの2026年前半には、成果と課題の両方がありました。
売上は伸びました。7月も前年を上回る見込みです。新しいお客様、新しい商品、新しい市場、新しい技術への挑戦も進んでいます。
一方で、利益率は低下しています。数字や業務の標準化、事業の選択、人材育成、管理職の役割、AIの組織的な活用は、まだ十分ではありません。
私は、この二つをどちらも隠さずに見ることが大切だと考えています。
成果だけを見れば慢心します。課題だけを見れば、これまで積み上げてきた努力を否定することになります。成果を正しく認め、同時に構造的な課題を直視する。その両方が必要です。
2026年下半期、私たちが目指すのは、見た目に大きな会社になることではありません。
売上が利益を生み、利益がキャッシュとして残り、そのキャッシュが商品、システム、人材へ再投資される会社。社員が仕事を通じて成長し、その貢献が正しく評価され、会社の成長が社員の新しい可能性へ返っていく会社。特定の個人、取引先、市場、国に依存し過ぎず、変化に応じて自らを組み替えられる会社です。
「大きくなること」と「強くなること」は違います。
しかし、正しい利益を残し、人を育て、組織として学び続けることができれば、大きくなりながら強くなることは可能です。
2025年末に掲げた「変革」は、半年で完成するものではありません。2026年前半は、変革の方向が正しいかを現実の数字で確かめ、足りない部分を知る期間でした。
下半期は、その学びを具体的な利益、仕組み、人材の成長へ変える期間にします。
お客様、取引先、地域の皆様、そして日々現場を支えている社員一人ひとりとともに、HDGは、北海道の価値を国内外へ届けながら、変化の時代に長く必要とされる会社を目指してまいります。
今後とも、北海道開発グループをよろしくお願いいたします。
主な参考資料
- 米国議会予算局「The Budget and Economic Outlook: 2026 to 2036」
- 米国財務省「Major Foreign Holders of Treasury Securities」
- IMF「2026年7月改訂版 世界経済見通し」
- 中国国家統計局「2026年上半期国民経済運行状況」
- 中国国家統計局「2026年上半期社会消費品小売総額」
- 内閣府「2026年1-3月期四半期別GDP速報」
- 総務省統計局「2026年5月分 消費者物価指数」
- 内閣府「2026年6月 消費動向調査」
- 総務省統計局「2026年5月分 家計調査」
- 内閣府「2026年6月 月例経済報告」
- 日本銀行「2026年6月金融政策決定会合」