工場を持たない私たちは、北海道の大手メーカーとどう戦うのか
――ユニクロの「矛盾と戦う」から学んだこと
最近、ユニクロの「矛盾と戦う」という経営の考え方を読み、私たちの自社ブランド企画について改めて考えさせられました。
私たちは現在、MILKBATONや北森彩堂をはじめとする北海道商品の企画に取り組んでいます。しかし、商品を企画するたびに、いくつもの矛盾に直面します。
品質を上げれば原価が上がる。お客様に買いやすい価格にしようとすれば利益が薄くなる。独自性を出そうとするとロットが小さくなり、小ロットになるほどOEMメーカーからの仕入価格は高くなる。早く発売したい一方で、試食、表示確認、品質検査、包材設計、輸送試験には時間が必要です。
私たちは製造メーカーではなく、自社工場も生産設備も持っていません。
北海道の大手菓子メーカーと比べれば、製造規模、原料調達力、ブランド認知、売場、広告力のいずれにおいても不利に見えます。
しかし、ユニクロの事例を読んで感じたのは、企業の競争力は、持っている設備や資金の大きさだけでは決まらないということです。
他社が解決できていない矛盾を見つけ、その矛盾を解決すること自体が、企業の価値になるのではないでしょうか。
そして、工場を持たない企画会社の役割も、まさにそこにあるのだと思います。
1.ユニクロの商品そのものが矛盾である
ユニクロの服は、シンプルで、日常的で、誰もが着られることを目指しています。
しかし、シンプルであることは、普通でよいということではありません。
デザインがシンプルであるほど、生地の質感、着心地、シルエット、縫製の良し悪しが目立ちます。装飾で隠すことができないため、商品そのものの完成度が問われます。
その一方で、単に欠点のないベーシック商品を作るだけでは、お客様に新しさを感じてもらえません。
外見はシンプルでありながら、商品内部には新しい素材、新しい機能、新しい生活提案を入れ続けなければならない。
つまりユニクロは、
外見はシンプルでなければならないが、中身は革新的でなければならない。多くの人に合う商品でありながら、ありふれた商品になってはいけない。
という矛盾に挑戦してきたのだと思います。
それを表した言葉が「MADE FOR ALL」です。
本文ではアップルも、矛盾を解決した代表的な存在として紹介されていました。
アップルの商品は、表面上は非常にシンプルで、誰でも直感的に使えるように見えます。しかし、そのシンプルさの裏側では、技術、設計、ソフトウェア、製造など、膨大で複雑な問題が処理されています。
優れた商品とは、複雑さをお客様に押しつける商品ではありません。企業側が複雑さを引き受け、最後は分かりやすく、使いやすい価値としてお客様に渡す商品です。
北海道の食品ブランドも同じです。
お客様が手にするのは、一箱のクッキー、一缶のプリン、一箱の抹茶菓子かもしれません。しかし、その裏側には、原料、味、製造地、賞味期限、輸送、破損、表示、在庫、発注ロット、輸出規制など、多くの複雑な問題があります。
お客様は、私たちが苦労したから高い価格を払ってくださるわけではありません。最終的に手にした商品が魅力的で、価格に見合うと感じるから買ってくださいます。
したがって、複雑さは私たちが内部で解決し、商品は分かりやすい価値としてお客様に届けなければなりません。
2.品質を上げ、コストを下げ、価格を維持する
一般的に、品質を上げようとすれば、良い原料、良い包材、厳しい検査が必要になり、コストは上がります。
そのコストをそのまま販売価格に上乗せすると、価格も上がります。しかし、お客様が使えるお金には限りがあります。価格が期待を超えてしまえば、どれほど良い商品でも選ばれない可能性があります。
そこで求められるのが、
品質を上げながらコストを下げ、価格を維持する。場合によっては価格も下げる。
という、一見すると不可能な要求です。
普通に考えれば、「そんなことはできない」と言いたくなります。
しかし、本文では、できないと言って諦めるのは素人であり、お客様から対価をいただくプロである以上、矛盾に向き合い、何らかの解決方法を探すことが仕事だと説かれています。
一流のホテルマンであれば、お客様から相談されたとき、最初から「できません」とは言いません。まず解決の可能性を考え、時間を調整したり、代替案を探したり、他部門と連携したりしながら、できる方法を探します。
すべての要望を無条件で受けるという意味ではありません。考える前から「不可能」を答えにしないということです。
商品企画も同じです。
OEMメーカーからMOQが高いと言われたとき、すぐに「だから商品化できない」と結論づけるのではなく、なぜそのMOQになるのかを確認する必要があります。
原料の最低発注量なのか、包材の印刷ロットなのか、製造ラインの切替コストなのか。既製包材を使い、ラベルやスリーブだけを変えれば小ロット化できないか。複数の商品で同じトレーや缶を共通化できないか。予約受注によって生産前に数量を固められないか。
このように矛盾を分解し、解決策を探すところに、企画会社の専門価値が生まれます。
ユニクロのフリース、ヒートテック、990円ジーンズは、こうした矛盾への挑戦を象徴する商品です。
単に既存商品を安売りしたのではありません。素材、機能、生産量、調達、物流、販売方法まで見直すことで、それまで両立しにくかった機能、品質、価格を、新しい構造で成立させました。
安いことだけが競争力なのではありません。
お客様が必要とする品質を残したまま、買いやすい価格を実現できる構造こそが競争力です。
3.矛盾を解決すると、市場が広がる
ユニクロの都心部への出店も、矛盾との戦いでした。
従来の郊外型店舗では、チラシなどを見たお客様が、明確な目的を持って車で来店します。そのため、来店したお客様の六、七割が実際に商品を購入していました。
ところが、都心部の店舗では、お客様の行動が全く違いました。
都心のお客様は、ユニクロの商品を買うことだけを目的に来店するのではありません。通りがかりに店へ入り、商品を手に取り、気に入ったものがあれば購入します。
最初の都心型店舗である原宿店では、来店客のうち実際に購入する人が二割程度しかいないことが分かりました。
しかも、都心の店舗では、お客様が多くの商品を手に取り、別の売場へ移動し、違う場所に戻すことが多いため、大量の商品整理が必要になりました。
都心店舗は郊外店舗より家賃が高いにもかかわらず、商品整理の負荷も大きい。だからといって、その負荷に比例して人員を増やせば、家賃と人件費が同時に膨らみ、採算が合いません。
これも大きな矛盾です。
- 来店客は多いが、購入率は低い。
- 商品に触れる人は多いが、整理コストも増える。
- サービスのために人員は必要だが、家賃が高い。
- 大きな市場へ進出したいが、運営難度も高くなる。
もしユニクロが「都心は自分たちに向いていない」と諦めていたら、その後の銀座店やニューヨークのSOHO店にはつながらなかったでしょう。
しかし、原宿店の店長をはじめ、都心店舗の現場が商品整理、陳列、補充、動線、在庫管理、人員配置の方法を少しずつ改善していきました。
都心型店舗の矛盾を解決した結果、それまで入れなかった市場へ進出できるようになったのです。
この事例から学んだのは、
矛盾が存在する場所には、まだ誰も十分に解決できていない市場がある。
ということです。
難しいために誰も挑戦していない。挑戦した企業も途中で諦めている。だからこそ空白が残っています。
そこで諦めずに解決方法を見つければ、その空白市場を自ら作ることができます。
4.表面的な対処では、本当の問題は解決しない
本文には、業績不振の店舗を例にした話もありました。
新店舗の売上が伸びず、スタッフの士気も下がっている。そこで「給料を上げれば、スタッフのやる気が出るのではないか」と考える。
給料を上げれば、一時的にモチベーションが上がり、売上も少し改善するかもしれません。
しかし、根本原因が残っていれば、同じ問題は形を変えて再び現れます。そのたびに賞与を出したり、さらに給料を上げたりすることになります。
経営者は、なぜスタッフの意欲が低いのかを、さらに掘り下げなければなりません。
目標や夢が共有されていないのかもしれない。スタッフ教育が不足しているのかもしれない。管理者が本音で話していないのかもしれない。スタッフが頑張っていても、感謝したり、褒めたりしていないのかもしれない。
本当の原因を発見し、そこを解決して初めて、投入したお金も生きてきます。
短絡的な対処を続けていると、いつも同じ問題に振り回されます。時間と労力を使っているのに、成果が積み上がりません。
これは、私たちの商品企画にも当てはまります。
商品が売れないと、すぐに値下げをする。利益が出ないと、OEMメーカーに値下げを求める。商談で反応が悪いと、包装デザインを変更する。
しかし、本当の問題は別にあるかもしれません。
価格が高いのではなく、買う理由が伝わっていないのかもしれない。工場の仕入価格ではなく、流通構造や物流費、SKUの多さが利益を圧迫しているのかもしれない。デザインではなく、そもそも商品がお客様の具体的な需要を満たしていないのかもしれません。
だから、価格や包装を変える前に、
本当の問題はどこにあるのか。
を確認しなければなりません。
5.工場を持たなくても、製造を理解しなければならない
私たちは工場を持っていません。
しかし、それは製造を知らなくてよいという意味ではありません。
もし私たちが商品名とパッケージだけを考え、中身の設計をOEMメーカーに任せてしまえば、できあがるのは、既存商品に自社ブランドを付けただけの商品です。
そのような商品は簡単に真似され、最終的には価格比較に巻き込まれます。
工場を持たなくても、私たちはメーカーのように商品を理解する必要があります。
どの原料が味に影響するのか。どの工程が食感や賞味期限を左右するのか。MOQは原料によるものなのか、包材によるものなのか。どこに製造ロスが発生しているのか。数量がどこまで増えれば単価が下がるのか。
これを理解しなければ、OEMメーカーから出された仕様と価格を、そのまま受け入れるしかありません。
製造は委託しても、商品定義は委託しない。
生産は外注しても、品質責任は外注しない。
これが、工場を持たないブランドに必要な基本姿勢だと思います。
6.本当のコスト削減は、品質を犠牲にすることではない
OEM価格が高いとき、単純に値下げを求めるだけでは問題は解決しません。
工場側に改善余地がなければ、原料、検査、作業時間など、見えにくい部分が削られる可能性があります。価格は下がっても、味のばらつき、破損、納期遅れ、クレームとして戻ってきます。
そこで品質を分けて考える必要があります。
食品安全、アレルゲン、表示、異物、賞味期限などは、絶対に削ってはいけない安全品質です。
味、香り、食感、輸送耐性などは、お客様が再購入する理由となる中核品質です。
原産地、原料、製造履歴、ロット追跡などは、ブランドへの信頼を支える品質です。
一方、箱の紙厚、色数、特殊加工、過剰な内装、必要以上に多い味の種類などは、見直せる可能性があります。
コストを下げるときは、まずSKU数、専用部材、複雑な包材、頻繁な仕様変更を減らすべきです。
安全性や中核となる味から削ってはいけません。
7.工場価格からではなく、お客様が払える価格から逆算する
商品開発では、最初にOEMメーカーへ「いくらで作れますか」と聞き、その価格に利益を加えて上代を決めがちです。
しかし、この方法では工場側の非効率や小ロットコストまで販売価格へ転嫁されます。
本来は、お客様が受け入れられる価格から逆算すべきです。
まず、お客様が支払える販売価格を考える。次に、小売、卸、物流、保管、検品、サンプル、返品などの費用を引く。そして、私たちが事業を継続するために必要な利益を引く。
最後に残った金額が、許容できる製造原価です。
その原価で必要な品質が実現できない場合は、品質を下げる前に商品構造を見直します。
内容量、入り数、味の種類、包材、缶型、販売チャネル、初回数量を再設計する。それでも成立しない場合は、商品化を見送る。
商品企画とは、すべての案を商品にすることではありません。
成立する商品と、成立しない商品を判断することも、重要な企画能力です。
8.OEMメーカーを圧迫するのではなく、作りやすい条件を整える
OEMメーカーとの関係も、単なる価格交渉ではいけません。
小ロット、短納期、複雑な包装、頻繁な変更を要求しながら、最低価格を求め続ければ、長期的な協力関係は築けません。
私たちができるのは、OEMメーカーが効率的に生産できる条件を整えることです。
販売予測を早めに共有する。味や包材の種類を絞る。複数商品で内トレーや缶を共通化する。直前変更を減らす。予約受注によって初回数量をできるだけ確定する。
工場が原料と生産計画を早く組めるようになれば、品質の安定とコスト削減を両立しやすくなります。
工場の利益を削るのではなく、無駄を減らして双方の利益を増やす。
これが持続可能なOEM関係だと思います。
9.MILKBATONと北森彩堂は、何を守るべきか
この考え方を私たちのブランドに当てはめるなら、まず、絶対に失ってはいけない品質をブランドごとに明確にする必要があります。
MILKBATONで守るべきものは、包材の層数や味の種類の多さではありません。北海道ミルクを想起させる香りや食感、贈り物としての価値、安心感です。さらに、輸送時の安定性、賞味期限、海外販売への適性も欠かせません。
競争力のある商品を少数に絞り、数量を集め、トレーや包材の一部を共通化できれば、中核となる味を犠牲にせず、原価を改善できる可能性があります。
北森彩堂も、見た目が抹茶ブランドらしいだけでは不十分です。茶の色、香り、後味、原料の由来、追跡可能性が、長期的な信頼の土台になります。
パッケージが美しくても、茶そのものの品質基準が曖昧であれば、ブランドは表面的なデザインで終わります。
一方、顧客が実際に感じる茶葉品質と信頼情報に原価を集中し、缶型、箱、デザインシステムを共通化できれば、品質とコストを同時に整えられます。
商品を始める前に、少なくとも次の三つを答えられるようにする必要があります。
1. お客様は、なぜ他社商品ではなく私たちを選ぶのか。
2. 絶対に下げてはいけない品質は何か。
3. 削ってもお客様が失望しないコストは何か。
この三つが曖昧なまま、生産を急いではいけません。
10.北海道の大手メーカーと同じ場所で戦わない
北海道の大手菓子メーカーには、ブランド、設備、売場、販売量、広告力があります。
その企業の商品を真似し、少し安く販売しても、長期的には勝てません。
弱い側が、強い側の最も得意な戦場へ入ることになるからです。
私たちが選ぶべきなのは、大手企業が取り組みにくい領域です。
- 特定の海外市場に合わせた専用商品
- 小ロット、短期間の限定企画
- IPコラボ商品
- 顧客別の限定パッケージ
- 複数メーカーの商品を組み合わせた売場提案
- 大手が嫌がる多SKU、小ロット混載
- 展示会、試食、予約受注による素早い市場検証
- 海外の規制、表示、輸送条件に合わせた北海道商品の再設計
大手企業が一つの商品を百万人に届けることを得意とするなら、私たちは百の可能性の中から、次に一万人が買う商品を早く見つけることを得意にすべきです。
製造規模で競争するのではなく、需要発見、編集、組み合わせ、スピードで競争するのです。
11.「矛盾と戦う」を商品化の手順にする
今回の学びを理念だけで終わらせず、商品開発の手順にする必要があります。
新商品の最初に、今回解決する矛盾を一つ明確にする。例えば、小ロットと低原価、北海道品質と買いやすい価格、長い賞味期限と良い食感、独自デザインと共通包材です。
次に、販売実績、顧客の声、予約意向から需要を確認し、お客様が受け入れられる価格を決めます。そして、絶対に下げない中核品質を三項目程度に絞り、流通費、物流費、必要利益を引いた上で目標原価を決めます。
試作品ができても、社内でおいしいと感じただけでは十分ではありません。試食、比較、輸送試験、表示確認、顧客テストを通じて、意図した価値が実際に伝わるかを確認する必要があります。
また、発売できたことを成功と考えてはいけません。再注文率、返品、クレーム、実際の利益、次回発注まで確認して、初めて商品として成立したと判断できます。
値引き、大量在庫、追加販促がなければ売れない商品は、問題を解決したのではなく、一時的に隠しただけです。
12.「工場を持たないが、普通の商社より商品を知る会社」になる
ユニクロの事例から私が最も強く感じたのは、矛盾は事業を止める理由ではなく、価値を生み出す入口だということです。
簡単に両立できることであれば、どの会社にもできます。
品質、価格、数量、スピード、在庫を同時に成立させることが難しいからこそ、解決した企業には価値が残ります。
私たちは工場を持っていないため、設備では勝てません。大手ブランドほどの認知もないため、広告や知名度でも正面からは勝てません。
だからこそ私たちは、メーカーよりお客様に近く、一般的な商社より商品に詳しく、大企業より早く動き、デザイン会社より原価を理解し、販売会社より品質責任を重く考える会社にならなければなりません。
製造は委託できても、需要判断は委託できません。
生産は外注できても、品質責任は外注できません。
デザインを外部へ依頼しても、ブランドが存在する理由まで他人に決めてもらうことはできません。
私たちが目指すのは、単なる「工場を持たない食品会社」ではありません。
お客様の需要、北海道の製造力、ブランドデザイン、輸出実務、販売現場を組み合わせ、新しい商品と市場を作る企画会社です。
そこまでできれば、工場を持たないことは弱点だけではなくなります。
一つの設備や生産方法、過去の成功商品に縛られず、必要に応じて最適なメーカー、原料、包装、販路を組み合わせられる自由になります。
その自由を、品質、価格、スピードが同時に成立する商品構造へ変えていくこと。
それが、私たちが北海道の大手食品メーカーと競争するときに選ぶべき道だと思います。
本稿は、提供されたユニクロの経営事例の書影をもとに、「矛盾と戦う」という考え方を現在の自社ブランド企画へ接続した個人的な考察です。原著全体の要約ではありません。