「膨張」は「成長」ではない
柳井正さんの著書を読み返し、2015年からの会社づくりと、これからのチームについて考えた
今朝、起きてからユニクロ創業者・柳井正さんの著書を改めて読み返した。
これまでも柳井さんの言葉には何度も触れてきたが、会社を設立してから11年が経った今読むと、以前とはまったく違う重さで胸に入ってきた。特に強く心に残ったのは、「チーム」と「高い目標を持つこと」についての考え方だった。
本を閉じた後、自分たちの会社のこれまでを振り返った。
私たちの会社は2015年に設立した。創業当時は、目の前の仕事をこなし、次の事業を立ち上げ、会社を存続させることに必死だった。仕事が増えれば人が必要になる。新しい事業を始めれば、また人が必要になる。「まずは人がいなければ何も始まらない」という思いから、とにかく多くの人を受け入れてきた。
しかし今、あの時期を正確に言葉にするなら、「成長期」ではなかったと思う。
あれは、会社の人数、業務、拠点、売上、責任範囲が外側へ広がっていった「膨張期」だった。
膨張と成長は、同じではない。
この違いを、私は今になってようやく、経営者として深く理解し始めている。
1.人が増えることを、成長だと思っていた
創業期の会社にとって、人が一人増えることの意味は大きい。できる仕事が増え、対応できるお客様が増え、今まで手をつけられなかった業務にも挑戦できるようになる。
そのため、当時の私は「人が増えること=会社が前進すること」と考えていた部分があった。
もちろん、事業を広げるためには一定の人数が必要である。組織には、量を増やさなければ次の段階へ進めない時期もある。だから、膨張期そのものが間違いだったとは思わない。今の会社があるのは、その時期に挑戦し、失敗し、それでも前へ進んできたからだ。
ただし、人数が増えるだけでは、組織の力は必ずしも強くならない。
役割が曖昧なまま人を増やせば、指示や確認が増える。価値観や目標が共有されないまま部署を増やせば、部門同士の壁が生まれる。責任の所在が明確でなければ、問題が起きたときに、誰も自分の問題として受け止めなくなる。
売上が伸びても利益が残らない。人数が増えても経営者の仕事が減らない。会議が増えても意思決定が速くならない。忙しくなっているのに、組織の能力が蓄積されない。
こうした状態は、外から見ると会社が大きくなっているように見える。しかし、内側では複雑さと固定費だけが増えていることもある。それは「成長」ではなく、「膨張」である。
2.合わない人を採用した責任は、経営者にもある
これまで、本当にさまざまな人に会社へ入ってもらった。その中には、会社の考え方や仕事の進め方、目指す方向と合わない人もいた。
当時の私は、採用の段階で十分に見極められなかったこともあれば、入社後に役割や期待を明確に伝えられなかったこともあった。「もう少し時間をかければ変わるかもしれない」「別の仕事なら力を発揮できるかもしれない」と判断を先延ばしにしたこともある。
結果として、本人が持つ力を十分に活かせなかっただけでなく、周囲の意欲やチームワークにマイナスの影響を与えてしまったケースもあった。
合わない人に退職してもらう判断は、簡単ではない。時間も労力も必要であり、精神的な負担も大きい。しかし、判断を曖昧にしたままにすると、その負担は本人と経営者だけでなく、真面目に働いている周囲の社員へ広がっていく。
私はこの経験から、単に「合わない人がいた」と考えるだけでは不十分だと思うようになった。
採用基準が曖昧だったのではないか。会社の価値観を正しく説明できていたか。任せる仕事と評価基準を明確にしていたか。成長のための支援と、改善を求める期限を設定していたか。そして、合わないと分かった時点で、誠実に判断する勇気を持てていたか。
人材の問題は、本人だけの問題ではない。採用し、配置し、育成し、評価する仕組みをつくることは、経営者の責任でもある。
この反省は、これからの組織づくりに必ず活かさなければならない。
3.今も会社を支えている仲間から学んだこと
一方で、今も会社に残り、責任を持って仕事に向き合い、会社のために頑張ってくれている仲間がいる。
順調なときだけではなく、難しいときにも現場を守ってくれた人。自分の担当だけに閉じこもらず、困っている仲間を助けてくれた人。会社のやり方が変わるときに、不満だけを言うのではなく、自分から学び直してくれた人。失敗したときに言い訳をせず、次に同じことを起こさない方法を考えてくれた人。
こうした人たちの存在によって、会社は今日まで続いてきた。
経営者はつい、能力、経験、売上、資格といった見えやすいものに注目する。しかし、長く会社を支える人に共通しているのは、それだけではない。
自分の現状を正直に認められる。人の意見を受け止められる。必要ならやり方を変えられる。任された仕事に責任を持つ。そして、自分の成長を会社や仲間の成長につなげようとする。
私は、会社に残ってくれている仲間から、人を見極める本当の基準を教えてもらったと思っている。
4.中小企業は、大企業と同じ採用競争をしてはいけない
中小企業の人材採用と育成を、大企業と同じ考え方で進めることはできない。
知名度、給与水準、福利厚生、教育制度、配属の選択肢、採用に使える予算。これらの条件では、多くの中小企業が大企業より不利である。特に労働人口が減少する中で、最初から高い能力と豊富な経験を持ち、さらに意欲も高い人を採用しようとすれば、非常に大きなコストが必要になる。
だからといって、「良い人が来ない」と嘆いていても会社は変わらない。
中小企業に必要なのは、完成された人材を買う発想だけではなく、将来伸びる人を見つけ、会社の中で育てる力だと思う。
入社時点の能力だけで人の将来を決めない。経験が少なくても、学ぶ力がある人を見つける。今はできなくても、責任を持ってできるようになろうとする人へ機会を渡す。そして、本人の努力だけに任せず、会社側も仕事を通じて成長できる環境をつくる。
採用力だけで勝てないなら、育成力と定着力で勝つ。これは妥協ではない。中小企業が持続的に強くなるための戦略である。
5.第一の基準は「素直さ」
私が人を採用するとき、第一の基準として大切にしたいのは、やはり「素直さ」である。
ただし、ここでいう素直さは、上司の言うことに何でも従うことではない。自分の意見を持たないことでもない。
私が考える素直さとは、現実をそのまま見る力である。
失敗したときに他人のせいにせず、自分の不足を認められる。知らないことを「知らない」と言える。経験のある人から学べる。耳の痛い指摘でも、感情だけで拒絶せず、一度受け止めて考えられる。そして、正しいと思えば、自分のやり方を変えることができる。
能力は、経験と訓練によって高められる。しかし、自分はすでに十分だと思い込み、人の意見を受け入れられなければ、成長はそこで止まってしまう。
逆に、今の能力が十分でなくても、素直に学べる人は、時間とともに大きく変わる。その変化は本人だけにとどまらず、周囲にも良い影響を与える。
素直さとは、弱さではない。自分の未完成さと向き合い、より良くなるために変わることができる強さである。
6.第二の基準は「やる気」――行動に表れる意欲
二つ目に大切なのは、やる気である。
ただし、面接で「頑張ります」と言うだけでは、やる気があるとは判断できない。やる気は言葉よりも、毎日の行動に表れる。
分からないことを自分から調べる。教えてもらったことを次の仕事で実践する。約束した期限を守る。問題が起きたときに隠れず、早く報告する。目の前の仕事だけでなく、その仕事が誰の役に立ち、会社のどの目標につながっているのかを考える。
本当のやる気とは、一時的な興奮ではなく、地道な行動を続ける力である。
会社は、やる気のある人へ機会を与えなければならない。一方で、本人も機会を待っているだけではいけない。小さな仕事でも信頼を積み重ね、自分から次の責任を取りにいく必要がある。
「素直さ」と「やる気」があれば、最初の能力に多少の差があっても、人は育つ。私はこれまでの経験から、そのことを強く信じている。
7.人材はコストではなく投資である。しかし、投資には判断が必要である
人材に使う給与、教育費、研修時間、上司が指導する時間を、単なるコストとして見てはいけない。人が成長すれば、できる仕事が増え、判断の質が上がり、新しい価値を生み出せるようになる。周囲を育てられる人が増えれば、組織の能力はさらに広がっていく。
人材は、会社の未来をつくる投資である。
しかし、「投資だから、いつまでも無条件に時間とお金をかけ続ければよい」という意味ではない。
投資には、目的と期待する成果が必要である。会社は、本人に何を期待しているのかを明確にし、そのために必要な支援を行う。本人は、その機会に対して行動と成長で応える。そして一定の期間ごとに、何ができるようになったか、何がまだ不足しているか、次に何へ挑戦するかを確認する。
成長しようとする意思がなく、約束を守らず、周囲へ継続的に悪い影響を与えているにもかかわらず、判断を先送りするなら、その投資は会社にとってコストへ変わってしまう。
それ以上に問題なのは、成長しようとしている社員が「努力してもしなくても同じだ」と感じることである。努力する人が正しく評価されず、責任を果たさない人が放置される組織では、良い人から疲れてしまう。
人を大切にすることと、基準を曖昧にすることは違う。
本当に人を大切にする会社とは、期待する基準を明確にし、必要な支援を行い、成長を正しく評価し、難しい判断からも逃げない会社だと思う。
8.チームとは、ただ仲が良い集団ではない
柳井さんの本を読みながら、改めて「チームとは何か」を考えた。
同じ会社に所属し、同じ場所で働いているだけでは、チームとは言えない。人間関係が良く、衝突が少ないだけでも十分ではない。
チームとは、共通の高い目標を持ち、その実現のために一人ひとりが自分の役割を果たし、互いに要求し合い、支え合える集団である。
そこには、優しさだけでなく厳しさも必要になる。仲間が困っているときには助ける。しかし、約束を守らないことや、基準を下げることを「仕方がない」で終わらせない。良い仕事には敬意を払い、改善すべきことは率直に伝える。
意見が違うことは悪いことではない。むしろ、高い目標へ向かうからこそ、真剣な議論が生まれる。大切なのは、誰が正しいかを争うことではなく、何が会社と顧客にとって最も良いかを考えることである。
互いに切磋琢磨しながら、一人では到達できない場所へ進む。それが、私の目指すチームである。
9.高い目標は、人を苦しめるためではなく、可能性を広げるためにある
人は、高い目標を持たなければ、今の自分の延長線上にあることしか考えない。
今できる範囲だけで目標を決めれば、仕事のやり方を根本から変える必要はない。しかし、今のやり方では届かない目標を持つと、「何を変えなければならないか」「どの能力が足りないか」「誰と協力すべきか」を真剣に考えるようになる。
高い目標には、人の思考と行動を変える力がある。
もちろん、根拠も支援もなく、大きな数字だけを社員へ押しつけるのは目標ではない。それは単なる圧力である。
経営者が示すべきなのは、目指す未来、その理由、そこへ向かう道筋である。大きな目標を一年、四半期、一か月、一週間の行動へ分け、進捗を確認し、必要な資源を用意する。挑戦した結果の失敗から学べる環境をつくる。
高い要求と十分な支援。この二つがそろって初めて、高い目標は人を成長させる。
柳井さんの考え方を読んで私が感じたのは、大きな会社になった後で成功を説明しているのではなく、大きな未来を信じ、高い目標を掲げ続けたからこそ、組織も人も変わり続けることができたのではないか、ということだった。
私たちも、現在の規模を基準に未来を決めてはいけない。
10.本当の成長を、何で判断するのか
これから会社の成長を考えるとき、売上や人数だけを見てはいけないと思っている。
もちろん、売上、利益、顧客数、拠点数は重要である。しかし、それらは成長の一部であり、すべてではない。
本当の成長は、次のような変化に表れる。
- 一人ひとりが、以前より難しい仕事を任せられるようになったか。
- 経営者が細かく指示しなくても、現場で正しい判断ができるようになったか。
- 問題が起きたとき、責任の押しつけではなく、原因と改善策を話せるようになったか。
- 個人の経験が、仕組みや標準として組織に残るようになったか。
- 部門を越えて協力し、顧客へより大きな価値を届けられるようになったか。
- 次のリーダーが育ち、その人がさらに次の人を育てているか。
- 売上が増えるほど、利益、品質、信頼、働く人の成長も積み上がっているか。
これらが伴っていなければ、会社の数字が大きくなっていても、組織はまだ膨張しているだけかもしれない。
反対に、人数が急に増えていなくても、一人ひとりの能力が高まり、意思決定が速くなり、顧客からの信頼が深まり、次の挑戦ができるようになっているなら、会社は確実に成長している。
11.私たちは、ようやく本当の成長期の入口に立った
今の会社を見ていると、少しずつではあるが、同じ目標へ向かって努力できる組織になりつつあると感じる。
会社に貢献しようとする人が残り、新しい責任を引き受ける人が増え、以前なら私一人で判断していたことを、仲間が考え、決め、実行する場面も増えてきた。まだ十分ではない。仕組みも、人材育成も、評価も、改善しなければならないことは多い。
それでも、会社の中に「一緒に良くしていこう」という意思が育ち始めている。
私は、ここからを初めて「成長期」と呼びたい。
2015年から続いた膨張期には、多くの挑戦と、多くの失敗があった。しかし、そのすべてが無駄だったわけではない。誰と働くべきか。何を大切にするべきか。どのような組織では長く続かないのか。そして、自分自身が経営者として何を変えなければならないのか。
膨張期は、それらを学ぶために必要な時間だったのだと思う。
これからは、単に人数を増やすのではなく、志を共有できる仲間を増やす。単に仕事を増やすのではなく、顧客へ届ける価値を高める。単に会社を大きくするのではなく、人と組織が強くなる仕組みをつくる。
そして、素直さとやる気を持つ人へ、成長できる機会を渡していく。
おわりに――「どれだけ大きくなったか」より、「どれだけ強くなったか」
会社の未来は、経営者一人ではつくれない。
高い目標を持つ人が集まり、互いに切磋琢磨し、それぞれの力を一つの方向へ結びつけたとき、初めて会社はチームになる。そして、そのチームが学び続け、昨日できなかったことを今日できるようになったとき、会社は本当の意味で成長する。
私はこれから、「会社がどれだけ大きくなったか」だけではなく、「会社と働く人がどれだけ強くなったか」を見ていきたい。
膨張は、成長ではない。
人数が増えることも、売上が増えることも、それだけでは成長とは言えない。人が育ち、責任が育ち、信頼が育ち、チームとしてより高い目標へ挑戦できるようになること。それが、私の考える成長である。
私たちの本当の成長期は、これから始まる。